J. of Taroten

八潮の道路陥没と下水道(C2面:環境衛生工学, 2025.2.16)

都会で起きた事故なのに救助できない

　八潮の道路陥没(2025.1.28)では，生存が確認されていた運転手が救助できなかったことが衝撃でした。山岳遭難では，「救助隊員だって家族もいるし，無理な救助はできないよね」となるが，今回は，都会での事故であるのに救助できませんでした。事故初期の活動で救助隊員が負傷するなど，現場の人が一生懸命だったのは疑いがないし，草加八潮消防組合を責めるのも筋違いだが，救助対応にいろいろと教訓を残したのも確かなようだ。

インフラ専門家なる人が分散処理を語る怪

　今回の事故のマスコミ報道において，インフラ専門家なる人が「これからは，大規模な下水道に頼るのではなく，個別に浄水槽(おそらく浄化槽の間違い)を設けるなど，分散型のインフラに転換すべき」のようなコメントをするのが，気になる。中西準子さんのような良心的な学者が，かつて，下水道の巨大化に警鐘を鳴らし，合併処理浄化槽による整備を推奨していたことで，こういう言説になるのだろうが，少なくとも，今回の事故へのコメントとしては，的外れです。人口がある程度集積した地域のインフラとして，下水道から浄化槽への転換はあり得ないと考えたほうがよい。

作ってしまった下水道を放棄して分散処理に移行した方がいいケースはほとんどない

　現時点で，下水道が整備されていない人口低密度の区域のひとに向けて，「下水道は管理も大変だから，浄化槽で我慢することも考えたら」というのであれば，それは，そうかも知れない。しかし，2000年時点での下水道人口普及率が60%ほどに過ぎなかったことを考えれば，人口低密度地区に建設された下水道は，2000年以降に建設されたものがほとんどで，分散処理に移行するよりも，少なくともあと20～30年は下水道を使い続けた方がずっといい。しかも，人口低密度地区の下水道は概して小口径で，万一，破損しても，今回のような大事故になる可能性は低い(そこは，上水道が比較的小口径でも大陥没や大噴水になりやすいのと少し違う)。

汲み取りトイレでは嫁も来ない

　たろてんは，基本的には，コンパクトシティーの考え方 が正しいと思っています。「田舎暮らし」が環境によいかのような言説があるが，田舎で マイカーに頼った暮らしをするだけで，都市にコンパクトに住むより二酸化炭素排出量が多いライフスタイル になります。たろてんが学生の頃は東京へ流入する人口のうち男性の方が女性よりも多かったが，2010年ごろから女性の方が男性より多くなっています。地方での下水道整備の動機として，「汲み取りトイレでは嫁も来ない」がよく言われるが，地方でもあらかた汚水処理(下水道，農業集落排水事業，(合併処理)浄化槽を含む)が普及した2010年ごろから女性の流出が目立つことから考えて，「嫁」の来ない理由は下水道未整備ではなく，「嫁」という考え方の問題(田舎の社会や思想が女性から嫌われている)の可能性があります。

下水道は他の土木施設より耐用年数が短いか

　下水道は，機械設備や電気設備を大きく含むので，維持更新にお金がかかるが，土木施設だけを見ても，道路や橋よりも，耐用年数が短い可能性がある。今回の事故は，「硫化水素発生」→「管壁での硫酸生成」→ 「鉄筋やコンリートの劣化」で説明されており，下水道特有の問題が関連しているかもしれない。圧送管出口付近とか，ポンプ施設の間欠運転とか，硫化水素の生成しやすい場所や条件がいくつか知られており，下水道と硫化水素は切り離せない問題だ。

(2025.2.27訂補)臭気苦情について

　東日本大震災の際に 廃棄物仮置き場からの猛烈な臭気が問題になった。過去には，八王子バイオマスエコセンター臭気問題 にもかかわったことがあります。今回の事故でも，臭気(下水処理水の臭気 などより強烈な下水の臭い)が問題となっています。臭気発生源が特定されていないので，何とも言えないですが，電気設備や機械設備の設計が必要な「現場での下水道管からの気体の引抜と臭気成分の処理」は難しい可能性が高いです。ビルピットからの下水道排出水による悪臭対策も含めて，下水管内を微負圧に保てるといいですが，現実的ではなさそうです。