J. of Taroten

鼠入昌史 (2024)「トイレと鉄道 ～ うんこと戦ったもうひとつの150年史」交通新聞社新書，1100円(C6面:書評, 2025.1.23)

機械メーカーとの付き合いから

　五光製作所という車両機械メーカーがあります。このメーカーから15年ほど前に相談があり「風呂も海水を沸かして使う特殊な船で，普段は日本の近くで使う船なんだけど，海外へ出かけることがあり，その国の環境規制に抵触すると困るので，高度な排水処理を備えた船を作りたい」ということでした。この五光製作所は，船以外に，鉄道車両やバスのトイレ機械も手掛けていました(というか，そっちがメインでしょう)。

拙著「新 東海道水の旅」にも書いた

　ということで，拙著「新 東海道水の旅」では，この五光製作所からの研究委託の経験も踏まえて，東海道新幹線のトイレの仕組みについて，書かせていただきました。垂れ流し(黄害時代) → タンク式 → 循環式(青い水の出るやつ) → 真空式(シュポっと吸い込まれる飛行機のトイレと同じもの) と列車トイレは進化してきたが，ほかに，JR東日本の新幹線などに採用されている清水空圧式，研究はされたが，広く実用化には至らなかった燃焼式や生物処理-膜分離式などもあるよ，というようなことをたろてんは書きました。たろてんが高校生のころまでは，上野～宇都宮の中距離電車に乗れば，「大宮―上野間では使用しないでください」って，トイレに書いてあったし，青森県内の機関車けん引の客車のトイレから下を覗くと，線路が見えていました。

列車トイレの解説だけで1冊の分量があります

　本書(鼠入昌史 (2024))では，床下の狭いスペースをどのようにやりくりしてトイレ機器を設置していったかという技術面の話に加えて，設備計画面での記述(たとえば，トイレの和式/様式の区別，女性専用個室の有無，1編成の列車にどの程度の数の便器を設置するか，車両基地での汚物の引抜と処理)も書かれている。東海道新幹線では男性のビジネスユースが大きいことから，和式トイレが2020年まで残り，また，通常，男女共用個室，女性専用個室のペアで設置される女性専用個室も設置されていないのだそうです(2025年3月ダイヤ改正より全編成で設置に方針変更)。

衛生的で人間の価値は上がったが・・

　さまざまな苦情があったにもかかわらず，2000年頃まで，垂れ流し列車トイレが残り，最近まで糞尿に対して(ある意味では)おおらかな時代であったことに，本書を読むと，改めて感心させられます。1955年の 余部鉄橋下の 住宅での赤痢の集団感染なども紹介されており，人間の価値が上がったいまなら，こういうことは許されないだろう。それはそれで時代の進歩なんだけど，すべてのリスクが回避されて育てられた人間はたくましさ(免疫)を失ってしまう面もありそうです。

　列車トイレの分野はブームなのか，本書とは別に，類似書も刊行されています。清水 洽 列車トイレの世界，丸善出版(2023).