J. of Taroten

書評 次亜塩素酸，用水と廃水，廃棄物学会誌 (C6面: 書評, 2016.3.4)

福﨑智司 (2012) 次亜塩素酸の科学，米田出版，2600円

　いわゆる塩素処理の塩素のことだが，本書は，次亜塩素酸による殺菌，有機物などの分解，海水に添加した場合の反応，ステンレスなどの腐食など，次亜塩素酸の様々な側面について解説した本である。HClOは強い殺菌力を持ちClO-は強い洗浄力と脱色力を持つのだそうだ。ようするに，次亜塩素酸はpHによって，使い方が異なるということらしい。余談ながら，残留塩素をチオ硫酸ナトリウムで消去するというと，
　Na2S2O3 + 4 HClO + H2O → 2 NaCl + 2 H2SO4 + 2 HCl
というモル比 1:4 の反応と思いがちだが，たとえば，ヨウ素を介した滴定では，
　2 Na2S2O3 + HClO → Na2S4O6 + NaCl + NaOH
というモル比 2:1 (1:4に比べると消去できる塩素量として1/8)の反応式になるようです(上水試験法で塩素の濃度を求める際の滴定はこの反応？)。実際の環境水での反応も1:4というわけはないようで，酸化還元反応って奥が深いです。

用水と廃水, Vol. 58, No. 3(2016)

　たろてんが巻頭の今月の話題を執筆したので，よろしければお読みください。で，この号で少し面白かったのが，倉田 亮：世界遺産の水環境 56 パナマ運河の水環境，という記事です。パナマ運河では中間部の水位が高くなっていて大西洋，太平洋両側に向けて，船の出入りのための閘門で水位調節しているのは，何となくの教科書知識だが，その間の高くなっている部分が，ダムによる人造湖で，人が作ったものであるというのは驚き。そして，その運営を支えるのが，年間4000mmもの降雨と周囲の熱帯雨林の環境であるというところが，またすごいです。

廃棄物資源循環学会誌 Vol. 27, No. 1(2016)

　廃棄物学会が廃棄物資源循環学会になったのは，いつのことだっただろう。ダイオキシン騒ぎで焼却炉を立替が盛んだったころは，ものすごくお金のある学会というイメージだったが，最近はそのバブルがはじけて(会員数の推移はこちら)，静かな定常状態になっている感じがする。で，その学会誌の廃棄物アーカイブシリーズ6 東京ゴミ戦争がちょっとおもしろかった。美濃部知事時代の 東京のごみ処分 を振り返った記事だが，中央防波堤内側処分場の造成のくだりが興味深かった。ここはもともと浚渫土砂捨場の広大なヘドロ干潟だったずぶずぶの場所にシートを敷いて山砂を投げ込んで造成したものらしい。浸出水処理はどうやっても排水基準を満たせず，結局，処理したものの海には放流できず下水道接続になったとも書かれている。確かに，ここの浸出水は真っ黒である。本当にコーヒー。浸出水以上に問題なのが 埋立地発生ガス。ただ，それについて，深入りは禁物だ。東京都環境局 には清掃部門と環境部門とが同居しており，「環境部門のひまな連中には清掃部門の苦労はわからないのだから，学者といえども環境部門の人を利するようなことをしてはいけない」とのことでした。

下水道協会誌 Vol. 53, No. 641(2016)

　下水道協会と水道協会とは公益社団法人という点では似ている。しかし，たろてんは水道協会には何度か行ったことがあるが，下水道協会には一度も行ったことがないという点で異なる。下水道ではたろてんの関係した業務を扱う部署が，下水道協会ではなく下水道事業団だったというためだ。で，この下水道協会誌の今月号でおもしろかったのは，目黒川の合流改善の記事(となりの呑川も状況は似ていて，越流下水のために夏季に感潮域での 白濁，悪臭，スカム浮上 の3重苦が認められる河川)，多摩川のBODの推移の記事(1997年頃に大幅に低減するが，その原因が下水道の硝化促進運転)，福岡の処理水再利用の記事(二次処理 → 砂ろ過 → オゾン → 塩素 だったのを鉄・マンガンによるコロイド性着色物やユスリカの卵の除去ためにオゾン後にろ過をおこなうシステムに変えた)。こういう実務記事は雑学のかたまりという点ではおもしろいです。