J. of Taroten

バンコクDin Daeng下水処理場 (C2面：環境衛生工学，2006.3.28-31)

2006.03.28-2006.03.31バンコクに行ってきました

　バンコクに卒業式の翌日から行って来た。廃棄物処分場の調査が主目的ではありますが，ついでにディンデンの下水処理場を見てきた。これが少し面白かったので紹介しておきたい(Bang Khaen浄水場見学記はこちら)。ディンデンはDindaengとローマ字表記されており，今の空港から市街への高速道路のバンコク市街側の起終点になるので，道路標識でよく「↑Din Daeng」というのを見ます。処理場は密集市街地の中にあるので，日本のように，湾岸部や河川合流部の低地にある処理場とはだいぶ趣が違う。東京の落合処理場が都市型処理場ということで，住宅密集地に建設されたことが有名だが，ディンデンは庁舎の前に噴水があるわけでもなく，周辺との境界に植樹がされているわけでもなく，処理場自体が，日本橋の百貨店の裏口のような感じである。

土木工事というより建築工事

　日本の下水処理場といえば，池状構造物を想像するが，ディンデン下水処理場は，ビル状構造物として地上に存在する。日本では，水を入れると重量構造物になってしまう沈殿池や反応タンクは，土を掘って半地下で作るが，ディンデンは，一階が汚泥処理と機械室，2階が反応タンク，3階が最終沈殿池となり，最初沈殿池はない。おそらくは，地震がないので，重量物を上層に持ってくることができるということかと思うが，ポンプの揚程がものすごく大きくなるので，エネルギー消費的には不利な構造だ。3階の最終沈殿池からは，水が勢いよく放流管渠に滝のように落ち込んでいたが，日本で流行の小水力電力回収などは行われておらず，ちょっと，もったいない感じだ。

流入BODは30mg/L

　もうひとつ，下水道事業を土木でないものとしている理由が，この下水道には，専用の管渠は，処理場周辺だけで，他は在来の排水路を下水の収集に用いていると言うこと。つまり，下水が各家庭や商店などから道路わきの既存の排水路に放流されたその水路の水を遮集して下水処理場に持ってこよう，というのがバンコクの下水道計画のようである。これなら，費用は余りかからない。この場合，既存の水路で沈殿や反応がおこるので，処理場流入水のBODは30mg/Lに過ぎない。日本でも東京などの大都市のBODは100mg/Lを切っているところも多いが，30mg/Lは異常に低い。まあ，バンコクの下水道は，究極の 合流式下水道 と言えるでしょう。現在6下水処理場，7処理区が191.7km2をカバーし，処理量992,000m3/dayでバンコクでの下水道普及率は40%と言うことだが，日本の下水道とは集水システムがすでに述べたように異なるので，これを下水道と呼ぶかどうかは，少々，議論はあるかもしれない。

ディンデン処理場設計および運転概要

雨天時計画最大1日処理量(簡易処理含む)：1,706,445 m3/d
晴天時計画最大1日処理量(活性汚泥処理)：511,934 m3/d
実績平均一日処理量：300,000 m3/d
活性汚泥処理滞留時間：8hr(AT), 3hr(ST)
排水区面積：37 km2
排水区人口：1,080,000

水質項目設計流入水質実際の流入水質処理水基準値処理水実績
BOD(mg/L)15030205
TS or SS(mg/L)150-306
TN(mg/L)3012-15109.6
TP(mg/L)8-21.8
NH3(mg/L)--50.5
DO(mg/L)--＞5＞5

　リンの高度処理用に鉄塩の添加装置があるが，使われていない。主要水処理系統は無酸素ー好気だが，BODが薄いので溶存酸素が下がらない状況だ。こんなに薄い水質で活性汚泥は生きていけるのかと思うが，十分に，見た目には活性汚泥は生育していた。MLSSは高めで3,000mg/Lくらいあるとのことだった。処理水の消毒は行っていない。汚泥処理は集約施設で行っており，ディンデン下水処理場ではベルトプレスで脱水して20%DSにしてトラック排出して他の処理場で発生する汚泥とあわせて集約処理をしている。都市内にあり，臭気処理には，かなり気を使っており薬品を使ったスクラバーで処理しているようだった。

ここでも民営化の流れが

　この下水処理場では，その運営をBMA(バンコク首都政府)がVEOLIAグループのGASCOに委託している。電気代や薬品代を節約すれば，それは，運営会社の儲けになるとのことだった。この見学時の説明もスコットランド人のProject Managerが担当していたが，どうも，世界的な水産業が途上国(タイはもはや途上国ではないかもしれないが)を食い物にしている感じで，悪印象である。日本も 民間委託はこれから増える だろうが，食い物にされない，食い物にするくらいの勢いでやってほしい。民間委託される理由はいろいろバンコクでもあるようだったが，単なるコスト面というよりは人材不足が一番の要因であるようだった。