J. of Taroten

書評：今井翔太著 (2024) 生成AIで世界はこう変わる，SB新書(C6面:書評, 2024.12.18)

ChatGPT以来AIが再ブーム

　ChatGPTを大学のレポートに使われて困る，とか，そういう議論はもはや古くて，単なる検索と同じで，生成AI利用はふつうのことになってきました。学生が卒業してそのままになっている卒業論文を生成AIに入れたら，学術論文に変換できるのでは，という話もあったりします。水処理の世界でも，排水処理での曝気量とか，浄水処理での凝集剤添加量などをAI制御する研究が流行で，実務的にも需要が高いようです(前から似たようなシステムはたくさんありましたが・・)。

入学式の式辞のお決まり文句はすでに無効

　入学式の式辞では「オックスフォード大学のオズボーン博士ら(2013)によりますと頭を使わない仕事は今後コンピューター/AIに置き換えられる，だから，みなさんは，自分の頭を使って大学生活を送りなさい」のようなあいさつがここ10年ほど流行しました。たろてんは，すでに，その時点で，「適度に動きのある仕事の方が自動化しにくい」ことを指摘していました。本書においても，「頭だけ」を使う仕事が最もAIに代替されやすいことを指摘しています。例として，頭だけを使う囲碁や将棋では，すでにAIが相当に強いことが示されています。翻訳家，金融アナリストなども頭だけを使うだけに相当危ない職業のようです。医療においても，AIの方が医師より優れた成績を収めている診療科もあるようです。

創造の価値

　音楽(作詞，作曲)や絵画，イラスト描画などの創造的な領域も，ごく一部を除けば，知られていることの組み合わせにすぎないので，作品を作ること自体は，生成AIで十分に代行できるようです。ただし，創作物の価値には，「だれが創作したか」が含まれることを本書では指摘しています。つまり，囲碁や将棋は結果だけを見れば，AIが相当に優れていますが，「人が考え抜いて指した一手であること」に価値を見出すことができれば，囲碁や将棋が職業として残ることができそうです。学生から見て，「誰が語っているのか」が価値のあることであれば，大学教員も生き残る仕事かもしれないです。

人間が無意識で簡単にできる動作の自動化が難しい

　本書では，ChatGPTなど生成AIの登場により，将来影響を受ける仕事が大きく変わったといいます。生成AIの登場により，「頭脳労働こそが今後コンピューター/AIに置き換えられる」ようです。いっぽう，さまざまな形状の衣類をたたんだり，ちらかっている部屋をかたずけたり，(歩く走る感覚で)スキップしたり，こうした動作は人間が簡単にできているにもかかわらず，自動化するのは相当に難しいといいます。こうした動作をともなう仕事に加えて，介護やカウンセリング，ごく一部の頭脳労働(2000万円以上の年収がある判断・責任をともなう仕事)もAIが代行するのは難しいようです。研究者は「AIで相当影響を受ける仕事」に分類されています。