J. of Taroten

書評：善教将大 著(2025):民度，中公新書，2876 (C6面:書評, 2025.11.22)

選挙権を得られる年齢の20歳から18歳への引き下げ

　我が国においては，公職選挙法が2015年に改正され，2016年から選挙権を得られる年齢が20歳から18歳に引き下げられた。本書によれば，一般に西欧諸国では，このような若者の権利行使を広げる提案がなされた場合に，その提案への支持が若年者ほど高く，老年者ほど小さいのが普通であるそうである。つまり，新たに権利を得る人は，権利が拡大することを喜び，一方で，自分の既得権が侵害される(自分の1票の価値が減ってしまう)と考える人は，反対する傾向にあるという。ところが，本書によれば，日本の場合は逆の調査結果が出ているらしい。

若年者，老年者，双方のやさしさがあらわれる

　つまり，日本では 若者は自分に自信がないので，「自分のような見識のないものが投票に行って，政治に影響を与えては大変だ」と考え，一方で，老年者は，今の日本の状況を「シルバー民主主義になっても困るから，より若者の意見が反映できるようにした方がよい」と考える傾向があるようなのだ。つまり，本書に示されるデータから考えると，日本の老年者は，「プチ若者寄り」の考えを支持するようです。

兵庫県知事出直し選挙

　本書では，「民度」が問われた事件として，兵庫県知事選挙をとりあげる。この選挙では，「パワハラ」や「おねだり」で斎藤元彦知事が失職したが，その出直し選挙で同氏が再選され，「兵庫県の有権者は民度が低いのでは」と多くの国民が感じた。しかし，本書によれば，そのように単純に「民度」の問題と片付けるのは正しくなく，兵庫県民は斎藤の資質に問題があることを了解したうえで，県立大学無償化などの「プチ若者寄り」の斎藤の政策を評価したと考えるのが種々のアンケート結果から妥当だとしている。

「プチ若者寄り」が支持される時代

　ということで，2025年の参議院選挙では，「水道民営化反対とか農薬反対とか左のようなことも言う右の政党」以外に「現役世代の手取りを増やす」と訴えた政党も伸びました。「現役世代の」と限定していることから，この政党の政策は「リタイヤした老年世代より若者を応援している」ように「プチ」感じます。いま「プチ若者寄り」の訴えをすると，若者の票以外に，老年者の票も「トリクルダウン」してくる時代に見えます。実際には，この政党の政策(基礎控除の増額など)を単純に実行すると，案外，高齢者が得をするらしいので，本当のところで，若者向けの政策ではなさそうでもあり，・・。

「グラン若者寄り」は若者から反感を買う

　一方で「グラン若者寄り」政策は，高齢者からはもちろん嫌われ，若者からも，拒絶されると考えられます。高齢者を守る意味で2023年5月まで長引いたコロナ対応についても，「早く5類に移行したら」と言っていたのは主要政党の中では「維新」くらいで，案外，強い感染防止政策が若者の支持を受けていました。いまの若者はやさしい心の持ち主なので，「コロナ対応で，自分のような見識のないものの学びの機会が失われるのは仕方がない」と考えます。ただ，やさしいだけでは，(若者が会社で，日本が国際社会で)稼いでいけないように感じます。若者には，やさしいだけではなく，様々な体験や知識を積んで，「自分のような優れた見識のものの意見が尊重されるべきだ」と自信をもってほしいです。